白雪王子
昔々、あるところに、一人のお妃さまがいました。
ある日、お妃さまは、窓辺で縫い物をしていました。
その時、手が滑って、針がお妃さまの指を刺しました。
小さな傷から、赤い血が1滴、白い雪の上に落ちました。
それを見たお妃さまはこう言いました。
「あぁ、この雪のように白く、血のように赤く、そして黒檀のように黒い、美しい子が生まれたらいいのに…」
数年後、お妃さまは1人の子を産みました。
生まれた子の名前はロイと名づけられました。
その子は、あの日に願ったように、雪のように白い手袋、血のように赤い練成陣、そして黒檀のように黒い髪を持っていました。
人々は彼のことをこう呼びました。
白雪王子と……
数年後、白雪王子はとても美しい青年に成長しました。
その容姿は、数々の女性を虜にし、その甘い言葉は、耳にした女性全ての心をとろかせました。
しかし、彼の成長を快く思わないものがいました。
彼の義父親、エドワード王です。
「くそ、なんでアイツばっかりちやほやされるんだ…オレより背が高いし、オレより階級上だし…」
そんなむしゃくしゃした時、エドワード王はいつも 魔法の鏡に話し掛けます。
「鏡よ鏡、世界で1番錬金術が上手いのは誰?」
『それは、鋼の錬金術師であるあなたです』
この答えを聞くと、エドワード王は心が癒されるのでした。
ところが、ある日、いつものように、エドワード王が質問すると、鏡はこう答えました。
『エドワード王さまも立派な錬金術師ですが、白雪王子のロイさまも、負けず劣らず優秀な錬金術師です』
ぷっちん…
エドワード王の理性が切れました。
エドワード王は、ロイを始末することにしました。
王に命じられ、狩人のヨキは森へロイを連れて行き、殺そうとしました。
「ほう、お前如きがこの私を殺すと?」
「はいっ、あ、いいえ…しかしこれは王の命令で、逆らえば私が…」
「ふん、言いたいことはそれだけか?」
ロイははめていた白い手袋の指先をこすり合わせました。
赤い練成陣が光りました。
「あわわわ…お許しを〜」
ヨキがそう言った瞬間、大きな爆発が起こりました。
狩人の手からは逃れたものの、セントラルの城を追い出されたロイには行くところがありません。
どんどん、森の中を進んでいくと、やがて小さな建物が見えてきました。
近づいてみると、入り口に表札が出ています。
「『東方司令部』?」
ロイは中へ入ってみました。
中には誰もいません。
歩きつづけて疲れたロイは、置いてあったソファーに横になりました。
すぐに、心地の良い睡魔が訪れました。
ロイは深い眠りへと落ちていきました………
キーンコーンカーンコーン
どこかで何かのチャイムが鳴り響きました。
それを合図とするかのように、遠くから歌が聞こえてきます。
「ハイホーハイホー仕事が好き〜♪書類に現場にいざ〜ハイホーハイホーハイホーハイホー残業もし、休日も返上いざ〜ハイホー♪」
どこからともなく、小人たちが集まってきました。
「さぁ、今日もバリバリ働くわよ」
「「イエス、マム!」」
小人たちがいつもの仕事へ向かおうとしたそのときでした。
「中尉!こっちに誰か見知らぬ人が寝ております!!!」
一人の小人の声に、全員がその小人の下へ集まりました。
見ると、ソファーの上に、黒髪の涼やかな顔をした男が、すやすやと寝息をたてているではありませんか。
「誰かこの人を知っている人は?」
中尉と呼ばれた女の小人の言葉に、皆一同に首を横に振ります。
「とにかく起きてもらわないと…」
中尉は腰のホルスターに手を伸ばし、愛用の銃を取り出しました。
ガシャッ
ドン!ドン!ドン!!!
弾は寝ていたロイのすぐ横に突き刺さります。
さすがのロイも、これにはたまりません。
「なんだ!?なにがあった!?!?!?」
「お目覚めですか?」
声のする方を見ると、そこには金色の髪を綺麗にまとめた女性の小人が立っていました。
「君か、こんなことをしたのは?危うく死ぬところだったじゃないか!!!」
「ねらいははずしています。それより、貴方はどなたですか?」
ロイは、手短にこれまでのことを話しました。
「そうですか…貴方があの女たらしで有名な白雪王子…」
「女たらしって…君ねぇ…ところで、ここは一体何処なんだ?」
「事実なのですから、仕方ありません。ここは、東方司令部です。私はここで中尉の職についているリザ・ホークアイです」
「ハボックっす」
「ブレダです」
「ファルマンといいます」
「えっと…フュリーです」
「オレはヒューズだ」
「ワン!」
「あぁ、この子はブラックハヤテ号。私の飼い犬です」
リザが自己紹介すると、他の小人たちも次々と自分の名前を告げました。
「あぁ…私はロイだ。皆は白雪王子と呼んでいる。ところで、もし良かったら、私をここに置いてくれないか?実は行くところがなくて…」
「構いませんが…ここは職場です。郷にいれば郷に従え。ここにいる間は私たちと同様、働いてもらいます」
「えぇ〜」
ロイは露骨に嫌な顔をしました。
「働かざるもの食うべからず。東の国の諺です。丁度、大佐の職が空いていますので、貴方はそこに入ってもらいます」
有無を言わさぬリザの口調に、ロイはただうなずくしかありませんでした。
次の日から、ロイは小人たちとともに、東方司令部で働き始めました。
東方司令部の主な仕事は、森の治安を守ることです。
森で起こったいざこざを解決したり、森に住むものたちが安心して暮せるようにパトロールしたり、仕事はいつも山のようにあります。
「大佐、サボらずにちゃんと仕事してください」
今日もリザのお説教が、司令部に響いています。
「これから、森に視察に行って来ます。くれぐれもサボらないでくださいね。それと、知らない人が来ても、ほいほいと中に入れないでくださいね。貴方は狙われているんですから…」
「あぁ、分かってるよ」
そのころ、セントラルの城では、いつものようにエドワード王が鏡に向かって話し掛けていました。
「鏡よ鏡、世界で一番優秀な錬金術師は誰だ?」
「森の奥にある東方司令部にいるロイが大変優れた錬金術師です」
鏡の言葉を聞いて、エドワード王は驚きました。
「くそ、あの野郎…生きてたなんて…」
エドワード王はすぐさま、白雪王子を倒すべく作戦を立てました。
先ず、錬金術で毒入りのリンゴを錬成しました。
そして、部下の1人を呼び寄せてこう言いました。
「これを、森の奥の東方司令部にいる白雪王子に食べさせてやれ」
「わかったわ」
部下はリンゴを籠に入れると、東方司令部へと向かいました。
東方司令部につくと、丁度窓から外を眺めている白雪王子の姿が見えます。
部下はその窓に近寄りました。
「こんにちは、素敵な王子さま」
ロイが目をやると、そこには1人の女が立っていました。
「初めまして。私、ラストっていうの」
ロイは、スタイルのいいラストにくぎ付けになりました。
「やぁ、素敵なお嬢さん。どういたしました?」
「噂の白雪王子さまへ、差し入れを持ってきたのよ。お一ついかが?」
ラストは籠から例のリンゴを取り出します。
「お仕事お疲れでしょう?どうぞ、召し上がってみてください」
妖艶なラストの微笑みに、ロイはそのリンゴを受け取りました。
そして、促されるままに、一口…
「うっ、これは…」
「ふふふふふ…」
ロイの目の前にいるラストの顔がぐにゃっとゆがみ、ロイは胸が苦しくなりました。
そして、ロイの意識は途切れたのでした。
「ただいま帰りました」
ドアを開けると、そこにいるはずのロイの姿が見えません。
「また逃げ出したのかしら…」
リザは机の後ろに周って、そしてそこで倒れているロイを見つけました。
「ロイ?ロイ?どうしたの…しっかりして!!!!」
しかし、ロイはぴくりとも動きません。
リザはその場に泣き崩れてしまいました。
ロイの亡骸は、ガラスの棺にいれられ、丘の上に安置されました。
小人たちは、その周りで泣き続けました。
そのとき、隣の国の貴族の一行が東方司令部を訪れました。
その貴族は、ガラスの棺に入ったロイを見て一目で気に入り、小人たちに譲ってくれるよう頼みました。
始めは拒否していた小人たちでしたが、貴族の強い意志に心を揺り動かされ、遂に大切にするならとの条件付きで、ロイの亡骸を譲ることにしました。
貴族は、従者の2人に棺を運ばせました。
途中、従者の1人が木の根に足を取られつまずきました。
その拍子に、ロイの口からリンゴのかけらが飛び出しました。
「…んっ…ここは…」
なんと、ロイは生きていたのです。
「おぉぉ、生き返るとは、我輩いたく感動いたしましたぞ!!!」
嬉しさのあまり、貴族はロイに抱きつきました。
「ぐぇっ…く…苦しい…」
「我輩は、隣の国の貴族、アームストロングであります。白雪王子、これも何かの縁、我輩とともに、隣国で美しき肉体美を誇る我が家に代々伝わる錬金術を学ぼうではありませんか」
すっかり乗り気になったアームストロングは、ぐったりしているロイを抱えて、隣国へと進んでいきました。
そんな様子を、小人たちは丘の上からじっと見詰めていたのでした………
「ちょっと待て、何で最後がアームストロングなのだ?」
「何かご不満でも?」
「不満も何も…大体、私が主役というのがおかしいだろ?元は『白雪姫』で主人公は女だぞ?」
「仕方在りません。司令部に黒髪キャラが少ないのですから…」
「くそっ、軍部祭りの出し物係なんて二度とやらんぞ」
「大佐がジャンケンで負けなければ、もう二度としなくていいんですよ?」
「………………………」
東方司令部は今日も平和なのでした。