青空に浮ぶ月と太陽
時計の針はもうすぐ午後3時を指そうとしている。
そろそろ、上司の集中力が切れてくる頃。
そう思いながら、リザは執務室へと向かった。
コンコン
「失礼します」
ドアを開けると案の定、上司の注意は書類以外のものへ移っていた。
「またサボりですか?こちらの書類は6:00までとなっておりますので、早急にお願いします」
「そうあせらなくても大丈夫だよ。ずっと集中してやるよりも、少し息抜きしたほうが効率がよくなるっていうじゃないか?」
「……大佐はいつも息抜きしすぎなんですよ……」
溜息とともに、ふと上司の手にしているものが目にとまった。
それはあまりにこの人に似つかわしくないもの。
「占い雑誌ですか?」
「あぁ、よく当たると女性たちの間で人気なのだよ」
相変わらず、流行には敏感なんだから…特に女性の…
「それで、当たっていますか?」
「そうだな…当たっているものもそうでないものもいろいろだが…コレなんてなかなかいいところをついているんじゃないかな?」
差し出された雑誌のページをリザは手にとってみる。
「天体占い?」
「そう、その占いによると私は『太陽』だそうだよ。なかなか当たっているとは思わないかね?」
『太陽…世界を明るく照らす太陽のようなあなた。その明るさと暖かさは人々の憧れと尊敬の対象です。
何事においても中心的役割を果たし、人々の先頭にたってみなを導く、有能な人物です』
……どの辺りを当たっていると思っているのだろうか…
「ところで、君はどのタイプかね?」
「私ですか?ええっと…私は『月』らしいですね」
『月…夜空に白く光る月のようなあなた。その光のように、クールで冷静なあなたには人を従わせる強さがあります。
しかし、時にはその真面目さゆえに苦労することも…。たまには息抜きが必要です』
「どうだね?」
「さぁ、あまり当たっているとは思えないのですが…」
よ〜く当たっているよ…
心の中でロイはつぶやいた。
「しかし、私が太陽で君が月か…昼と夜…正反対のこれではともにいることが出来ないではないか…」
一目見てがっかりしている上司に、占いなどでここまで気を落とさずとも…
「ですが大佐、昼間でも月は出ていますよ」
ふと窓の外に目を向けた部下につられて、ロイもその視線の先に目を向ける。
そこにはよく晴れた青い空に、白く透き通った三日月が浮んでいた。
「太陽と月。太陽が活躍している昼間はそっと太陽のそばにいて、太陽が無能となる夜には、太陽の代わりに地上に光を与える。
正反対なのではなく、むしろお互いを理解しあっている、そんな関係に見えませんか?」
「『無能』って君ねぇ…」
「別に大佐のことを言ったわけではありませんよ。それとも、心当たりがおありですか?」
ちょっと意地悪なリザの言葉にロイはぷ〜っと小さくふくれている。
「しかし、どちらかというと、私は太陽と月が一緒に居られる昼間の関係の関係の方がよいな…ねぇ、リザは…」
「大佐、もう十分『息抜き』できましたね?」
時計を見ながら、はっきりとした声がロイの言葉を遮る。
「時間厳守でお願いします。決して逃げ出さないように。逃げ出したら頭の風通しがよくなりますからね」
「…はい…」
部下の鋭い口調に、ロイはうなずくしかなかった。
やはり君は『月』だな…
書類にふたたび取り掛かった上司をみて、暫くは大丈夫だろうと判断した。
「それではまた伺いますので」
そう言って執務室を出ようとしたリザは小さくつぶやいた。
「私も、昼間の太陽と月の関係の方が好きですよ…」
書類に集中している上司には聞こえないような小さな小さな声で…