とりかへばや
久しぶりに見るせいか、ここはどこか懐かしい感じがした。
門をくぐり、目的地に向かい、ゆっくりと歩みを進める。
「兄さん、早く行きたいんでしょ?」
「なっ、バカ!そんなわけね〜だろ…どうせいつもの嫌味を聞くだけだぜ?」
鎧姿の弟にそうは言ってみたものの、エドの心は今にも走り出してしまいそうな衝動を抑えるのが必死だった。
しかし、兄の威厳が…
やれやれ…
一見変わりのないように見える鎧の顔がそんな表情を浮かべたような気がした。
兄に気付かれないように、少しだけ歩みを速める。
それにつられて、エドの足も速くなる。
本当に素直じゃないんだから…
執務室まであと少し…
「あれ?大佐いないの?」
いつも彼がいる執務室を開けると、そこにいたのは彼の副官だけだった。
また、例のさぼりが出たか?
そう思ったエドだったが、実はそうではないらしい。
「大佐、もうすぐ査定なのよ。それで、時間があるときは、その準備をしてるのよ」
年に1度の国家錬金術師査定…
査定自体はロイのレベルでは楽勝だが、いかんせん、準備をする時間が無い。
毎日書類と事件に追われ、結局査定直前に苦労をする羽目になるのだ。
「大佐のヤツ、夏休みの最終日に宿題溜めて苦労するタイプだな」
「そういう兄さんは、夏休み明けても宿題終わってなかったじゃないか」
「うっさい!」
可愛らしい兄弟げんかを見ていたリザはちらりと壁に掛けられた時計に目をやった。
そろそろかしら…
「エドワードくん、悪いんだけど、大佐を呼んできてもらえないかしら?15:00から会議があるのよ。私は書類で手が離せなくて…」
「あぁ、いいよ。どこ?」
「第3研究室よ」
「分かった、ちょっと行ってくるよ。アルはここで待ってろ。すぐ戻ってくるから」
そういうと、エドは執務室を飛び出していった。
「すみません、中尉。兄さん本当に素直じゃなくて…」
「いいのよ、大佐も素直じゃないんだから…」
二人でやれやれという表情を浮かべて、閉め忘れられたドアを眺めた。
まったく世話の焼ける2人だ…
部屋を出ると、今まで押さえつけられていたものから解放されたかのように、エドは第3研究室を目指した。
執務室を出て1,2分後、エドの目の前に目的地が見えた。
すぐにでも扉を開けたい衝動を抑えて、足音を立てないようそっと近づく。
鍵穴からそっと中を覗くと、床にしゃがみこんで何かしている背中が見える。
集中しているためか、いつもと違い隙だらけだ。
ふと、エドの中にいたずら心が芽ばえた。
普段向こうの良いように手のひらの上で転がされている身としては、今は絶好のチャンスだ。
ゆっくりとノブを回してみる。
鍵は掛かっていない。
そっと扉を細く開ける。
まだ気付いていない。
両の手を合わせて頭の中ですばやく構築式を組み立てる。
バンッ!!!
「大佐、覚悟!!!」
扉が開くと同時にエドは室内に飛び込む。
驚いたロイが振り向くが、一瞬反応が遅れた。
エドはにやりと笑って、両手を地面につけた。
その瞬間、勝利の笑みでいっぱいだったエドの顔が凍りつく。
床にはロイを中心とした大きな練成陣が描かれていた。
車は急には止まれない。
勢いのついたエドもまたしかり。
「なっ!?」
「うわっ!?」
エドの両手が床に触れると同時に起こる激しい錬成反応。
まぶしい光が2人を包んだ。
ぐるぐると目が回る。
まるで巨大なたるの中に入れられて坂道を思い切り転がされている気分だ。
何が何だかわからない。
自分と回りの世界が一つに溶け合っていく。
エドの記憶はそこで途切れてしまった。
「遅いわね、エドワードくん…」
「そうですね…」
2人の帰りが遅いのを心配して、リザとアルは第3研究室へと向かった。
「あれ?扉が開いてる…」
中から声は聞こえない。
「どこか別の場所へ行ったのかしら?」
「う〜ん…」
不審に思いながら、2人は部屋の中を覗いた。
そこに見えたのは、床に倒れている黒髪の軍人と金髪の少年…
「っ大佐!」
「兄さん!」
それぞれ自分の上司と兄のもとへ駆け寄る。
「…んっ…」
「痛っ」
気が付いた…よかった…
リザとアルの顔に安堵の表情が浮ぶ。
「ご無事ですか、大佐?」
「大丈夫、兄さん?」
「んっ…ホークアイ中尉?」
「君は……アルフォンスか……」
ロイとエドの口から洩れるそれぞれの言葉。
いつもの2人の口調だけれども、なにかそこに違和感が…
「あの…大佐?」
「兄さん?」
リザとアルの態度のおかしさに、ロイとエドは当たりを見回す。
2人の視線がぶつかる。
「オレ?」
「何故私が?」
お互いの目の前にいたのは、自分の弟と部下に介抱されている自分自身…
「「ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」」
2人の声が室内に響き渡った。
「「どうなってるんだぁ!!!???」」