とりかへばや
「つまりこういうこと?大佐が書いた練成陣の上に、兄さんが新たな錬成を加えてしまったと?」
「あぁ…」
「で、2つが混ざって反応が起こった結果…」
「私と鋼のが入れ替わってしまったというわけか…」
ようやく落ち着いて情況を整理してみたところ、どうやら事態は大変な情況のようだ。
「どうするのさ〜兄さん…これって人体錬成なの?あっ、でもリバウンドはないみたいだし…」
「いや、多分人体錬成じゃない。オレは今回の錬成で門にたどり着いていない。それに何か新しいものを錬成したわけじゃない。」
「しかし、これは戻るが大変そうだな…」
「大体どうしてこんなことになってしまったんだ?元はと言えば、鋼のが子供みたいないたずらをするから…」
「うっさい!子供って言うな!!!」
「ふん、小さな子供に子供と言って何が悪い?」
「誰が顕微鏡で見ないと見えないくらいのハイパーどチビだ!!!」
いつもの言い争いを始めた2人だが、姿が入れ替わっている今、幡から見ているリザとアルには、子供のように駄々をこねているロイと、それをからかうエドにしか見えない。
それはなんとも滑稽な様子である。
「あ〜もう、オレがやればいいんだろ!大佐はさっさと仕事にいけよ。その間に元に戻る方法、見つけとくからさ〜」
「そうだね。大佐、3時から会議だって言ってたし…」
「うむ…仕方がない…」
そう言って、それぞれの役目へと向かおうとしたとき…
「お待ちください、大佐、エドワードくん!」
鋭い声が2人を止めた。
「どうしたんだね?」
「なんだよ、中尉?」
「大佐、そのお姿で会議にご出席なさるおつもりですか?」
「「あっ…」」
すっかり忘れていたが、2人の身体は入れ替わっていたのだ…。
「仕方がない…体が入れ替わっているのだから、行動も入れ替えるしかないか…」
「え〜じゃあオレが会議に出るってこと!?」
「それしかないでしょうね…」
「そんな〜……第一オレ、会議なんて分かんね〜よ」
「大丈夫、ただ座っていればいいだけよ」
「じゃあ、僕は大佐と一緒にいるよ」
結局、エドはリザとともに会議へ、ロイはアルとともに研究室へ残ることとなった。
はぁ…
大きくロイは溜息をついた。
面倒なことになってしまった…
しかし、このままでは埒があかない。
「では、元に戻る方法を探すとするか…」
「そうですね」
残ったアルが返事をする。
「では、私はこちらを探す。君はそっちから頼むよ」
二手に分かれて、片っ端から資料を探す。
しかし、いつもの身体と違うためか、どこか動かし辛い。
むむっ、あの本はどうだ?
そう思って、手を伸ばした瞬間……
届かない………
いつもなら、最上段でも背伸びをすれば手が届くのに、今は上から3段目にも届かない。
「はははっ、これは間違いなく鋼のの身体なんだな…」
そう思うと、何だかこの身体が愛しく思えた。
人を簡単に殺すことのできる手を持ち、その手で何人も殺めた。
だから、ロイは自分の身体が好きではなかった。
重い枷を背負った自分の身体。
けれど、今いるのは、鋼の…エドの身体…。
「この身体にいる限り、私は焔は使えないな…」
この身体で、この手で人を殺めてしまったら、エドを汚してしまうかもしれない…
「大佐、これ使ってください」
声をかけられ振り向くと、そこには脚立を持ったアルが立っていた。
「多分、いつもの兄さんなら届かないと思って…」
「ありがとう」
アルから脚立を受け取ると、ずしっとした重みを感じた。
「何だ?重いな…背とともに、力も減ったのか?」
「あ、それ多分、機械鎧のせいですよ」
その言葉を聞いて、ロイははっとした。
さっきから感じていた動かしづらさ。
慣れないからだと思っていたけれど、これはいつもエドが感じている重み…
「いつもこんな重たいものを身に付けているのか…」
「それが兄さんの手と足だから…」
彼が背負っているものを分かったつもりでいたが、実際にその身になってみて、初めて理解できた。
これが機械鎧の…そしてエドワードが背負っている重み…
「作業を続けよう…」
そう言って再び資料探しを再開した2人。
けれど、ロイの中には先ほどまでとは違う何かが、自分の中にあるのを感じた。
「なぁ、中尉…オレが会議に出ても大丈夫なのか?」
「仕方がないわ。だって今は貴方が大佐ですもの」
リザに連れられて、エドは会議室の前までやってきた。
「会議って言っても、座ってりゃいいんだろ?」
「まぁ、基本的にはそうね。でも、これだけは注意してちょうだい。何があっても怒らないこと!」
「????あぁ……」
ギィッ
会議室の扉が開く。
「席は奥のテーブルの3番目よ」
耳元で囁いてくれたリザの言葉を頼りに、エドは席へと向かう。
「では、私はこれで」
リザが手助けできるのはここまでだった。
「いいわね、私の言ったこと、決して忘れないで。貴方はマスタング大佐なのよ」
最後にリザが残した言葉をかみ締めながら、エドは席へとついた。
「マスタング殿は今日も副官殿とご一緒ですか」
隣に座った軍人がエドに向かって声をかけてきた。
「はぁ…」
どうにも答えようが無いので、曖昧な返事しかエドはすることが出来ない。
しかし、この軍人、階級はロイと同じ大佐のようだが、その言葉は鋭いとげに包まれているかのようだ。
「まぁ、マスタング殿程ともなれば、あんな美人を部下につけることも出来るのでしょうな」
「まだまだ若いですからな…」
さっきの軍人だけではなく、周りに座った人たちも次々と話し掛けてくる。
しかし、その言葉はやはり、エドにとって気持ちのいいものではない。
「お静かに…では本日の会議を始めたいと思います」
やっと議長が会議の開始を宣言した時、エドはホッとした。
会議は淡々と進んでいる。
これで会議が終わるまでこのまま座っていればいい…。
そう思ったエドが肩の力を抜いたときだった。
「その役目はマスタング殿にお願いしてはどうでしょう」
急に話を振られて、すっかりリラックスムードだったエドは驚いた。
「そうですな。マスタング殿が適役でしょう」
「私もそう思います」
周りの軍人たちも次々とロイを上げる。
「まぁ、こんな役、まだまだお若いロイ殿には荷が重過ぎますかな」
「しかし、イシュバールの英雄ともあろうお人ですから」
「ふん、人間兵器めが…」
次々とロイに浴びせ掛けられる皮肉や悪意。
「ふざけるな!!!」
思わずそう怒鳴ろうとしたエドの頭に、さっきのリザの言葉が浮んだ。
何があっても怒るな…
その瞬間、エドは理解した。
ここがロイの戦いの場であることを。
そして、自分が今怒鳴り散らすことは、ロイの今後の立場を危うくすることを。
若くして大佐の地位にまで上り詰めたロイは、他の軍人たちから見れば、激しく邪魔な存在である。
周り中敵だらけのこの軍の中で、ロイは一人で必死に戦っていたのだ…
オレがアイツの今までの苦労を無にすることは出来ない…
アイツならどうする?
深呼吸を一つ。
今、オレはロイ・マスタングだ。
「わかりました。お引き受けしましょう。しかし、私もまだまだ『若造』ですからね。結果は保証いたしませんよ」
にやりと笑ってそう言いながら、テーブルを鋭い目でぐるりと見渡す。
「で…では…マスタング殿に…」
さっきまでロイへ言いたい放題だった他の軍人たちも、まるで蛇に睨まれた蛙のように大人しくなってしまった。
「お疲れ様です」
会議が終わって外に出ると、そこにはリザが待っていた。
「大丈夫だった?」
「うん…ありがとう中尉…」
にこりとリザが微笑んだ。
「よう、大佐。見つかったか?」
「あぁ、鋼の…これなんだが…」
ロイが差し出した本をエドは受け取り、そこにかかれている練成陣と構築式に目を通す。
「これだ!これだよ、大佐!!!」
「そうか…では早速…」
2人で床に新たな練成陣を描く。
すべて描きおわると、2人はその中央に入った。
「いくぞ、鋼の」
「おう」
同時に練成陣にてをかざす。
先ほどとは違った、柔らかな光が2人をつつむ。
2人の意識が混ざり合う…
「……元に戻ったな…」
「……あぁ…」
そこにはいつもの2人が立っていた。
ついさっきまで自分がいた身体を見てみる。
そこにいるのは、自分の大切な人。
「いきましょう」
小声でリザはアルを促すと、部屋からそっとでていった。
「何か変な感じだな…」
「あぁ……しかし、鋼の…私は君になれてよかったよ」
「……オレも…」
日はすっかり傾いて、夕日が2人を真っ赤に染めていた。