偶然の一致



「おはようございま〜ス」

今日も一日の始まりだ。

早く眼が覚めたため、いつもより早く司令部に着いた。

朝、ドアを開けると、いつもオレより先に出勤してる人がいる。

いつもより早く着いたけれど、やはりその人の方が早かった。

「あら、おはよう、ハボック少尉」

「相変わらず早いッスね、中尉」

真面目という言葉がこれほど当てはまる人も少ないだろう。

その上仕事もできて、 射撃の腕も超一流、美しさにおいても他を寄せ付けない。

オレの自慢の上司でもある。



「おい、入り口に突っ立ってるんじゃない。邪魔だぞ」

朝の爽やかな空気を一瞬で曇らせてくれるこの声は…

ゆっくりと振り返ると、目線の少し下にさらさらの黒髪と、朝のためかいつもより幾分細い眼をした見慣れた顔。

「おっ…おはようございます、大佐…」

「あぁ、おはよう」

眠そうな眼を何とか開けているという感じで椅子に座ると、中尉が淹れたコーヒーをすすっている。

「ちょっと大佐、目を覚ましてください!もうすぐ仕事始まりますよ」

「あぁ…」

どうやら、彼の始業時間はまだまだ先らしい。

ロイ・マスタング。

階級は大佐。

女好きで、サボり癖があって、気に入らないものはすぐに燃やそうとする……

それでも、オレたちの上司なのだ…



「おはようございます」

そろそろ人が増えてきた。

皆一様に、大佐の席に主が座っているのを見て驚いている。

「大佐、今日はずいぶん早く出勤したんっスね」

「そうね、雨が降らなきゃいいけど」

相変わらず辛口っすね…中尉…

「そういえば、昨日は非番だったんですよね、何してたんですか?」

「昨日は久しぶりに映画を見に行ったわ。ほら、今話題になっている…えーっと…」

「あぁ、あの純愛もの…」

「あっ、そうそう、『呪われた館』よ!こう、ひっきりなしに押し寄せてくる恐怖がすごくて、しかも演出もものすごく凝ってるの」

「は…はぁ…」

確か、周りの評判では、あまりの怖さに夜眠れなくなったという話もちらほら…

やはりこの人は只者ではない…





昼前、中尉に頼まれて、資料を大佐の元へ持っていくことになった。

「失礼しま〜す」

部屋に入ると、机に突っ伏している大佐の姿があった。

「大佐、頼まれてた資料持ってきましたよ。ほら、しゃんとしてください、また中尉に怒鳴られますよ」

「あぁ…そこに置いといてくれ…」

「どうしたんスか?何か疲れてますね…てか、昨日休みだったんじゃないんスか?」

よく見ると、眼の下にはうっすらとくまができている。

「ちょっと、昨日見た映画があまりにリアルでな…夢にまで出てきて…」

「もしかして、『呪われた館』だったりして……」

「ん?何だ、お前も見たのか…」

いや…そうじゃないですが……

あえてそれ以上突っ込むことなく、資料を置いて部屋をあとにした。





やっと昼になった。

食堂は今日も大混雑だ。

今日のランチはAがミートソースでBがハンバーグ。

「オレはBランチにするぞ」

「僕はAですかね」

「中尉はどうしますか?」

「う〜ん…パスタは昨日食べたから、Bランチかしら」

何とか空いてる席を見つけて、全員座ることができた。

「「いただきま〜す」」

食べようとしたそのときだった。

「おい、席つめろ」

「あ、大佐。どうぞ」

大佐のトレーにはハンバーグ。

まさか……

「あ、大佐もBランチなんですね」

こら、余計なことを聞くんじゃない、フュリー!

「あぁ…パスタは昨日食べたからな……なんだ、何か言いたいことでもあるのか、ハボック?」

「……いえ……」

チラリと中尉がこちらを見たのがわかった。



こんな偶然もあるのかもしれない……

オレは自己暗示のように心の中でそう繰り返すしかなかった……