邂逅 ロイver.



ずっとあこがれていた人の元で錬金術を学ぶことができる。

その知らせが届いたとき、私は自分の頬をつねった。

痛い……ということは…夢じゃない…

夢じゃないとわかっても、私はそれが信じられなかった。

列車を降りて、駅から師匠の家までの間、足は交互に前に踏み出していても、心はまるで頭上30センチくらいのところをふわふわと浮いている、そんな感じだ。

地図を見ながらたどり着いたそこは…何と言うか…よく言えば、ワイルドな……悪く言えば荒れ果てたお屋敷だった……

そして……師匠自身も、いろいろな意味で想像を超える人物だった………




「……というわけだ…君の研究に関してはこの部屋を使ってくれ…本はここにあるもの全て自由に見てくれて構わない…」

これからの研究について一通り師匠から説明をうけているうちに、ずいぶんと時間がたってしまった。

「錬金術に関しては以上だ…あと、身の回りのことに関しては……」

その時だった。

「ただいま〜」

玄関から声が聞こえた。

「あぁ…ちょうどよかった…あとの事に関しては、娘から聞いてくれ…」



へ〜娘ね……えっ、娘っ!?!?!?

師匠、娘さんがいたのか…

この人の娘か…想像かできない…


「あぁ、リザ…こっちに来てくれないか…」

「は〜い」

ううぅ…一体どんな…



「どうしたの?」



現れたのは……師匠に似ても似つかない、可愛らしい少女だった…



世の中には、構築式だけでは証明できないことがあるんだな…



「あぁ、こっちは今日から私の元で錬金術を学ぶことになったロイ・マスタングくんだ…」

「初めまして、リザ・ホークアイです」

「あ…ロイ・マスタングです…初めまして…」

ぺこりと頭を下げたものの、どうしたらいいのかわからない。

「家の中のことと、この周辺のことを案内してやってくれ…私は研究に戻る…」

「はい、じゃあ行きましょう」

ニッコリ微笑む彼女に私は黙ってうなずいた。



「ここがトイレでここがお風呂、キッチンはこっちです…」

次々と部屋を案内してくれる彼女に、私は黙々とついて歩くだけだった。

「何か質問ありますか?」

「いや…大丈夫…」

「そうですか…ところで、今日はこの後どうするんですか?」

「えっと…特に予定はないんだけど…」

も…もしやこの展開は…

「だったら、この周辺も案内しますよ。ちょうど近所の広場でお祭やってるし…」

ま…まさか…これが世に言う「デートのお誘い」ってやつなのか!?!?!?

自慢じゃないけど、私は今まで女の子と二人で出かけたことがない…

なんというか…女の子と遊ぶよりも、錬金術をやってた方が私にとっては楽しかったから…

だから、リザに誘われたとき、正直どうしていいのかわからなかった。

「えっと…もしかして、行くの嫌ですか?」

「あっ…いや、そんなことない!!」

「???そうですか、じゃあ行きましょう」

しっ…しまった…つい、勢いで……

こうして、私はリザと2人で祭りへ出かけることになってしまった…



「ここがパン屋さんで、そっちが本屋さん。錬金術関係の本は頼めば取り寄せてもらえますよ」

広場へ向かう途中、リザは家周辺のいろんな場所を案内してくれた。

けれど、その半分も私の耳には入ってこなかった。

大体、出会ったばかりの女の子と二人っきりなんて、何をしゃべったらいいのか全くわからない。

「あ、ほら、そこが広場ですよ」

広場にはたくさんの人が集まっていた。

「へぇ…結構大きな祭りなんだな…」

「そうですね、1年に1度ですから」

中央のステージでは陽気な音楽と共に、旅芸人の少女たちが華麗なダンスを披露している。

広場の周りにはたくさんの屋台がでていて、どこもにぎわっていた。

しかし…やはり、カップルが多い…

こういう空間は苦手だ…



「ちょっと、そこのお兄さん、やってみないかい?」

一軒の屋台の前を通りかかったときに、私は呼び止められた。

見てみると、どうやら射的のようだ。

「どう?彼女にいいとこ見せてみない?今なら、この可愛いクマのぬいぐるみがもらえちゃうよ〜」

えっ!彼女!?!?!?

な、えっ、そんな…

「へ〜面白そうですね」

「だろ、彼女もそういってることだし、どうお兄さん?」

う〜ん…リザもなんだか面白がってるし…

「じゃあ、1回…」

「はい、毎度。100センズね」

店員に代金を渡し、代わりに銃を受け取る。

あ、結構重いんだな…

何を狙おう…やはりここは大当たりのあのクマのぬいぐるみを…

狙いを定めて引き金を引く。

ぬいぐるみの真ん中を狙ったのに、弾が当ったのはそのはるかに右の方…

あれ?おかしいな…

じゃあ、今度は少し左側を狙って…ってなんで上に飛ぶんだよ!!!

弾は残り一発…慎重に…当った!!!

けれど、クマのぬいぐるみは倒れない。

「あ〜残念、ハイこれ、残念賞のキーホルダー」

くそっ、なんで倒れないんだよ…

「ごめん、ぬいぐるみは取れなかったけど…ハイ」

「えっ、もらっていいんですか?」

「あ、うん…」

だって、こんな可愛らしいキーホルダー、持ってても仕方ないし…

「あ、ありがとうございます!」

そんなに喜ばれちゃ、何だか心苦しいな…残念賞だし…



「どうだい、お嬢ちゃんも挑戦してみるかい?」

さっきの店員がまた声をかけてきた。

「う〜ん、じゃあやってみようかな…」

リザは代金を払うと、銃を受け取る。

何だか、様になってるな…

「あのぬいぐるみ、大きいから普通に真ん中に当てても倒れませんよ?」

「えっ?」

「こういうときは、ここを狙うんです」

そういって、彼女は銃を構える。

その瞬間、彼女の眼が変わった。

何だ、まるで獲物を狙う鷹のような…

ドン・ドン・ドン!!

立て続けに3発の弾の音。

棚に並べてあったクマのぬいぐるみ2つと隣に置かれていたチョコレートの箱が勢いよく倒れた。

「大当たり〜!!!」

カランカラ〜ンと大きなベルの音が鳴り響く。

「すごいね〜女の子でここまで当てた子は今まで見たことないよ」

周りにはいつの間にかギャラリーが集まっていた。

なんだか…立場が…





「射的…上手なんだね…」

「えぇ、趣味で射撃をやってますから」

そんなことは、最初に言ってくれよ………

はぁ…



「はい、どうぞ」

がっくりうなだれてる目の前に差し出されたのは、例のクマのぬいぐるみ…

「2つ持ってても仕方ないですし…それにキーホルダーのお礼です」

「あ、ありがと…」


差し出されたぬいぐるみを手に取ったら、またため息が出た。

「もう、何でそんなにへこんでるんですか…はい、口あけてください」

彼女の言葉を上の空で聴きつつ、口をあける。

すると、口の中に甘い味が広がった…

「このチョコレート、美味しいですね」

リザの手の中にある箱は先ほど獲得した賞品のチョコレート。

「そろそろ機嫌直してくれませんか?」



そういって下から覗き込んでくるリザの顔を見た瞬間…



心臓が止まるかと思った…



なんだこれ…どうしちゃったんだ?

錬金術の新しい構築式を発見したときの興奮に似ているようで全く違う…

寧ろ、それよりドキドキする…



「どうしたんですか?顔真っ赤ですけど…熱でもあるんじゃ…」

「あ、いや、大丈夫だから!!!」


だから、頼むからそう覗き込まないでくれ…


「だったらいいんですが…」


不思議そうにつぶやくリザから視線をそらして歩き始める。


その後をリザが半歩遅れてついてくる。



その距離が自然になるのはまだずっと先の話。


とりあえず、もっと頼れる男にならないと…






こうしてあのロイ・マスタングの伝説はスタートしたのだ………