邂逅 リザver.
「ねぇ、リザ…お願いがあるんだけど…」
頬を赤らめて、言いづらそうに話しかける女の子。
こんな風に声をかけられるのはもう何度目だろう…
差し出された手紙を受け取ると、彼女はホッとしたような表情で微笑み去っていく。
そんな様子は、女の私でさえ可愛らしいと思う。
手紙を鞄にしまい、頼まれていた本を本屋で受け取り、いつもの道を歩く。
何故かいつもよりも鞄が重く感じる。
「あぁ、おかえり」
書斎に入ると、そこに父の姿はなかった。
「あ、師匠ならさっきでかけたけど…」
本から眼を上げることなく、その人は聞いてもいないことを答える。
いや、確かに聞こうとは思ってたけど…
なんというか、そう先回りして答えられても…正直面白くない…
「はい、これ。預かってきました」
あえてさっきの答えには触れずに、さっき預かった手紙を差し出す。
「あぁ…ありがとう…」
やはり本から顔を上げず、まったくありがたくなさそうな声で返事をする。
この人…わかってるんだろうか…
というか、人の話を聞いているんだろうか…
「あと、頼まれてた本、届きま…」
「おぉ、待ってたんだ!!!」
言い終わる前に、本を奪い取られた。
どうやら、話は聞こえてたみたい。
さっきまでの無関心っぷりはどこへやら。
子供のように目を輝かせてページをめくっている。
普通、逆じゃないのかしら…
「それで、この手紙はどうすれば?」
また、本に夢中になってしまう前に要件は済ませなきゃ。
「ん?手紙?」
やっぱり、話聞いてなかったみたい…
「預かってきたんです、マスタングさんにって・・・」
「………そこに置いといてもらえるかな…」
彼のいう「そこ」には、数日前にも別の子から受け取った(正確には私が受け取って渡した)手紙が、未だ封が切られずに置いてあった。
他にも2、3通、私が受け取ったのではないものもある。
どうやら、直接手渡されたらしい。
「あの…この手紙、読まないんですか?」
なんとなくいたたまれなくて聞いてしまった。
「う〜ん…読んだところで、私は彼女たちの誰かとお付き合いしたいとは思わないし…それに、今は錬金術の方がずっと楽しいし…」
相変わらず、ページをめくる手を止めずにそう言う。
やぱり、父と同じ、錬金術バカなんだ…
まぁ、父の元に弟子入りした時点でそれはわかっていたんだけど…
別に、女の子たちに同情しているわけじゃないけれど、なんかムカつく…
「でも、せっかく女の子たちが勇気出して書いたのに…読んであげてもいいんじゃないですか?」
いつもなら、手紙を渡してそのまま何も言わない私がこんなに突っかかってることに驚いたのか、マスタングさんの眼が本から私へと向いた。
髪と同じ真っ黒な瞳が、珍しいものでも見るようにまん丸に見開いている。
「どうして君がそんなに怒ってるんだ?」
「別に怒ってなんていません」
「いや、怒ってる」
「怒ってませんっ!」
………これじゃ、子供の喧嘩だわ…
「とにかくっ、私が言いたいのは、人からの好意を無碍にするようなことはやめてくださいってことです!!!別に付き合ってやれとまでは言いませんが、せめて手紙読んで返事してあげるくらいしたらどうですか?」
実際、これまで手紙を頼まれた女の子からは返事をねだられていたし、せっかく告白したのに冷たくされたという苦情を言われたことも1度や2度ではない。
「そうは言われても……私は今まで女性と付き合ったことがないから…正直どうして良いかわからないんだよね…」
「…へっ…!?」
思ってもみなかった言葉に、つい間抜けな声をあげてしまった。
だって、(一般的に見ればたぶん)かっこいいといわれる容姿だし、頭も悪くないし、付き合った女性の2人や3人はいると思っていたのに…
「じゃあ、今まで彼女はいなかったんですか?」
「あぁ…悪かったな…」
すねたような表情でそっぽを向くその姿は、実際の年齢よりもずいぶん子供っぽく見えた。
「ずっと勉強ばかりしてたからな…」
そうだった…この人は生粋の錬金術バカだった…
なんだか今まで渦巻いていた怒りがすぅっと何処かへ流れていくような感じがした。
この人…可愛いかも…
「別に難しいことしなくてもいいんですよ」
「じゃあ、具体的にどうすればいいんだい?」
う〜ん…かく言う私も、マスタングさん同様、これまでいわゆる彼氏と呼べる人がいたわけではない。
そういえば、この前友達が彼氏の笑顔が素敵って惚気てたっけ…
「とりあえず、笑えば良いんじゃないですか?」
「笑う?」
「えぇ、『ありがとう』といってにっこり微笑むだけでも、きっとずいぶん印象が変わる筈ですよ」
「ふ〜ん…そんなもんなのか?」
半信半疑といったところだ。
まぁ、私も正直なところ、どうしたらいいのかさっぱりわからない。
「じゃあ、次からはそうしてみようかな…」
何はともあれ、これで少しはマシになるんじゃないかしら。
私への苦情も減ってくれるとありがたいんだけど…
「それでは、ちゃんと手紙読んでくださいね。勉強の邪魔してすみませんでした」
「あ、ちょっと待って」
手紙をテーブルに置いて出て行こうとすると、後ろから呼び止められた。
まだ何か言いたいことでもあるのかしら?
そう思って振り返った私に彼はやさしく微笑んで言った。
「ありがとう」
その笑顔に一瞬心を捉えられたのは、逃れられない事実。
「これでいいのかな?」
さっきの笑顔と180度違った、からかうような笑顔にふと我に返った。
「っ…いいんじゃないですか…それじゃ…」
バタンとドアを閉めると、扉の向こうから笑いを必死にこらえる声がする。
それを聞いて、余計に顔が熱くなる。
もしかしたら、私はとんでもないことを教えてしまったのかもしれない…