訓練



「……と言うわけで、来週行うテロ対策用の特別訓練の役割をくじで決めたいと思います」

部屋には司令部のいつもの面々がそろっている。

「しかし、なんで今回はうちなんすかね〜?」
「それは大佐が先日の会議で行われたジャンケンで負けたからよ」
「……うるさい…決まってしまったものは仕方なかろう」

順番に用意された箱の中から小さく折りたたまれた紙切れを選ぶ。

「全員引きましたね?では開いてみてください」

リザの声を合図に、一斉に皆が紙を広げる。


「では、役割は次のように決まりました。軍側、マスタング大佐、ハボック少尉、ファルマン准尉。 テロリスト側、ブレダ少尉、フュリー曹長、そして私ホークアイです」


「段取りは計画書に書いてある通りです。銃はペイント弾を使用します。打たれたらリタイヤ。テロリストが3人ともリタイヤとなった時点で終了です」

実際、この手の訓練はよく行われている。
事前に打ち合わせてあった通り犯人側は行動し、軍側も練習通りに対応する。
実戦よりも、市民へのアピールが目的とも言えるイベントだ。

「大体、こんなシナリオのある訓練が実際に役立つわけ無いんじゃないのか?」
「まぁ、一種の軍の宣伝みたいなもんだからなぁ…」
「私は実戦向きではないのですが…」
「あの〜僕も戦うんですか?」

口々に言いたい放題の部下を前に考え込んでいたロイがにやりと笑った。

「そうだな、シナリオのある訓練なんて、実戦には役に立たん。ブレダの言う通りだ」

「「?」」

突然の上司の発言に、4人はきょとんとした顔をしている。
ただ一人、リザだけは不信感を露わにしている。

この人がこんな表情をする時は、どうせろくなことを考えてはいない。

「よって、今回の訓練は本番を想定して行う!犯人側は全力で軍を潰しに来い。我々も全力で迎え撃つ!!!」

この言葉に、今度は全員が同じ表情を浮かべた。
何をいいだすんだ、この男は…

「しかし、ただ訓練するだけではやる気も起こらんだろう。そこで、罰ゲームをつけよう。負けた方は勝った方の言うことを1日聞かなければならない!」

「「はぁ!?」」

「どうだ?これで少しはやる気がでるだろう?」
「ちょっと待ってください、大佐。私たち犯人側は3人だけなんですよ?軍側は司令部内の兵士全員が参加するんです!これでは差がありすぎです!!!」
「まぁ、ちょっとしたお遊びだよ、中尉。これで、よりためになる訓練が行えるとなれば安いものじゃないか?」

ロイとリザ以外の4人はじっと2人の成り行きを見守っている。
大佐の無茶を止めることが出来るのは、リザ以外にはいないからだ。

しかし…

「……分かりました、大佐。では、我々3人がそちらに勝ったときには、約束を守っていただきますよ?」

思いがけないリザの言葉に、4人は驚きを隠せない。

「いいんっすか、中尉?」
「えぇ。私たちも本気で行きます」

こうなったら、4人ももう後には引けない。

「よし、では勝負は1週間後。約束を忘れるなよ?」
「何を今更」


こうして戦いの火蓋が切って落とされたのだった。



「いいんですか、大佐?あんな提案して…」
「ふっ、所詮相手は3人。こちらには300人の軍人がいるのだ」
「しかし、あちらにはホークアイ中尉がおりますが…」
「なに、気をつけねばならないのは彼女だけ。それに私にはこれがある」
そう言って、ロイはポケットから発火布を取り出した。

「罰ゲームが楽しみだな…」



「いいんですか、中尉?あんな提案に賛成して…」
「丁度いいわ。あの人のあの自信をこなごなに砕いてあげましょう」
「でも、僕たち3人しか…」
「敵が多いのなら減らせばいい。味方が少なければ増やせばいいのよ」
そう言うリザの眼にはいつにも増した鋭さがあった。

「絶対に罰ゲーム、受けさせてあげるわ」



勝負は1週間後。