星に願いを



日に日に日差しが強くなってきた。
街のショーウィンドーには色とりどりの水着が飾られ、人々の話題は夏の休暇を何処で過ごすかで大盛り上がりだ。

しかし、そんな話題も、ここ司令部では無縁のもの。

夏休みだからといって仕事が減るわけでもなく、寧ろ行楽地を狙ったテロや、夏特有の嵐等の災害のため、いつにもまして軍部の仕事が増える時期なのだ。


今日も司令部の中にはいつもの面々。

「あぁ…今年の夏も、何処にも行けそうにないな…」
「どうせ、何処に行っても混んでいるのですから…お金を使わず、寧ろ稼いでいたほうが得策と思えばいいのではないですか?」
「甘い!甘いぞ、フュリー!!!
夏と言えば、この暑さ。暑さゆえに、人は薄着になり、身も心も解放的になるのだ!!!そして芽ばえる恋☆今、彼女を作らずにいつ作る!?」
「ふん、お前のような者に、彼女を作るための休みなどやれるものか」
「ハボック少尉…同じようなセリフを春にも聞きましたが…」

春は息吹の季節で恋の花も咲く。
夏は身も心も開放的。
秋は切ない恋の季節。
冬は寒さを恋人と2人で暖めあう。


「結局、1年中彼女が欲しいってこと?」
「「うわっ!?」」

振り返るとそこに立っていたのはホークアイ中尉。
その後ろには、なにやら大きな木を抱えたファルマン准尉が立っている。

「なんですか、准尉、それ?」
「あぁ、これは『笹』ですよ」
「「ささ?」」
「はい、今日は七夕ですから」
「「たなばた?」」



東の国の神話です。
昔、彦星と織姫という2人の恋人がいました。
2人は結婚しましたが、仕事そっちのけで遊んでばかり…
そんな2人を見て怒った神さまが、2人を川を挟んで離れ離れにしてしまったのです。
一日中涙に暮れる織姫。
可哀想に思った神さまはこういいました。
「もし、1年間真面目に仕事をすれば、7月7日の1日だけ彦星と逢わせてあげよう…」
その後、2人は1年間真面目に働き、1年に1度だけ逢うことを許されたのです。



「いい話じゃないか…ううぅ・・・」
と涙を流すハボック。

「でも、1年に1度だけって、意外とケチな神さまですね…」
と真面目な顔で言うフュリー。

「まぁ、そこは神話ですから…本来の彦星と織姫はそれぞれ、わし座 の1等星アルタイルと、こと座 の1等星べガで…」
と持ち前の知識を披露するファルマン。

「真面目に仕事をしないのがいけないんじゃないですか?」
と厳しい目をして上司を睨むリザ。

「な…何が言いたいんだね、中尉…」
と急に慌てだすロイ。

「で、その東の伝説と、この笹が何の関係があるんだ?」

ファルマンの的を射た質問で、やっとみんな本来の質問を思い出した。


「その伝説によって、7月7日に願い事を書いた紙を笹につるすと、願いがかなうと言われているんです。2人からの幸せのおすそ分けのようなものですね」
「それで、軍部も異文化交流と一般市民との交流の目的から、入り口に笹を飾って、前を通った人に願い事を書いてもらおうということになったの」

軍部とはいつの時代も、一般の人々との間に深い溝があるものである。
昔は武力を楯に、傍若無人の限りを尽くしていた時代もあったが、最近ではそんなイメージを払拭しようと、市民との交流が盛んに行われているのだ。

「で、これを司令部の門のところに立てるってわけですか」
「ええ、でもその前に飾り付けをしなければ」
「東の方では、何でも紙でいろいろな飾りを作って笹を飾るとか…」

見れば中尉の手にはたくさんの色紙が。

「というわけで、皆さん手伝ってね」

にこりと微笑むリザに、逆らうことの出来るものなどここにはいない。
早速、飾りの準備が行われた。


「なぁ、ファルマン。具体的に飾りってどうやって作んの?」
「紙を色々な形に切って、それを飾ると聞いております」
「あら、曹長。それブラックハヤテ号?さすが手先が器用なだけあって上手いわね」
「あ、わかりましたか?えへへ///」
「むっ…中尉、私のはどうだ?」
「……カバですか?」
「…………ネコのつもりだったんだが……」

みな思い思いに色紙を切っていく。
まるで大きな子供達の集う幼稚園といったところだろうか。


30分後。

「よし、こんなものだな」
「そうですね。早速入り口に飾りましょう」


時々吹く風に、さらさらと笹の葉が揺れる。
下校途中の学生や、買い物帰りの母親と子供が、物珍しげに立ち止まり、思い思いに用意された短冊に願い事を書いていく。


「なかなかにぎわっているようだな」

執務室の窓からその様子を見ながら、ロイは嬉しそうに言う。

「ねぇまま〜これなぁに?」
「う〜ん、カバじゃないかしら?」

「やはり、アレははずした方がよいな…」
「大佐、それよりも今日の分の書類、早くしてください。ただでさえ準備で遅れているというのに…」
「あぁ、分かっているよ。それより中尉、今夜暇かな?」
「予定はありませんが…このままでは残業です」
「では、これが全部片付いたら、食事でもどうかね?」
「そういうことは片付いてからおっしゃってください」
「大丈夫、君がYESと言ってくれれば、1時間で終わらせるよ」

1時間後、そこには全てを終わらせてすっきりしたロイと溜息をつきながら書類を確認するリザの姿があった。

「何故、溜息をつくのだね?そんなに私と食事するのが嫌なのかね?」
「そうではありません。ただ、これだけ早く片付くのなら、いつもこの調子で仕事をして欲しいものだと思っただけです」

時刻は丁度終業の頃。

帰り支度をして、2人仲良く家路へとつく。

司令部の門を出る時、さっき飾りつけた笹にたくさんの短冊がさがっていた。

『さんすうがとくいになりますように』
『おおきないぬがほしいです』

「可愛らしいお願いですね」
そう言って反対側を覗いてみると

『彼女が欲しい!!!(しかもボイン)』
『予算が出て新しい無線機が買えますように』
『給料上げて!あと休み欲しい』
『先日出た雑学辞典が欲しいです』

「……煩悩の塊ですね…」
あきれた顔でロイの方を見ると、なにやらにやけた表情。

『ロイさまとデートがしたいv』
『マスタング大佐が振り向いてくれますように』

「あらあら、おもてになること」
「いや、中尉、これは違うんだ!私は別に…そうだ、私たちも何か書かないか?ちょうど紙も余っていることだし」
「はぁ、ではせっかくですし…」


お願い事…
今何かが欲しいと言うわけでもないし、何かに不満があるわけでもない…
そもそも、自分にはそういう願望というものが少ないのかもしれない。
私が心のそこから願っていることはいつもただ一つ…


「書けたかね?」
「はい」

細い紐を通して、2枚並べてつるす。

『軍服をミニスカートに!』
『上司のサボり癖が治りますように』

「……こんなところにまでそれを書くなんて、君ねぇ…」
「大佐こそ!何ですか、そのお願いは!!!」

顔を見合わせ、そして同時にプッと笑いが噴出す。

「行こうか?」
「はい」


夕焼けに染まる道に2人の影が長く伸びる。
今夜は綺麗な星空が見られそうだ。


風に揺れる2枚の短冊。
その裏には2枚とも同じ願いが小さく書かれていた。





『いつまでも側にいられますように』