大人の純情3



くそっ、いつもの調子が出ない…
昨日のヒューズとハボックのせいだ…

ロイはくしゃっと髪を掴んだ。
自分では気づいていない、行き詰まったときの癖。

ホークアイ中尉は、今日はまだ顔を出していない。
いつもなら始業の時間になると、書類を抱えて現れるのに、今日はロイが来た時には既にデスクの上に書類が置かれていた。

しかし、今のロイにとってはそれが好都合でもあった。

今、彼女に会ったら、私はどんな態度をとればいいのか分からない…

彼女は私の副官で、信頼できる部下だ。
それ以上でも、それ以下でもない…


もやもやしているものを振り切るかのようにロイは頭を振ると、書類へと目を落とした。

真面目に仕事でもしていれば、気にならなくなるだろう…。



そのときだった。

「大佐っ!!!」
駆け込んできたのはハボック少尉だった。
「テロリストが人質とって、銀行に立てこもりました!」

「フェリー、情報収集を頼む。ファルマンは応援の要請を。ブレダ、第1部隊を率いてくれ。ハボックと中尉、私と一緒に現場へ!」
『イエッサー!』


現場へ到着すると、銀行の中には従業員数人が取り残されているとのことだった。
テロリストは5人。
要求は幹部の釈放。

「人質がいなければ、こいつで焼くこともできるのだが…」
ロイは発火布を取り出す。
「人質は一箇所に固められて、見張りがついている様子です」
「ならば、隙を突いて敵のリーダーを捕らえることができれば…」
「見張りが少なければ、突入は可能かと…」

さて、どうしたものか…

「閃光弾と催涙ガスを使用しては?」
「やはりそれしかないな…」

作戦が固まった。
「では、ハボックは裏口から、中尉は私と一緒に表から。人質最優先だ。突入は15:00ジャスト」
一斉に時計を合わせる。
『イェッサー!』




建物の入り口の蔭にロイと中尉は身を隠した。
決行まであと1分26秒

「大佐、お気をつけくださいね」
「あぁ、わかっている」

突入5秒前…4・3・2・1…

すさまじい閃光と、むせる煙とともに、2人は表から突入した。
入り口の左にいた敵をロイが、右にいた敵を中尉がそれぞれねじ伏せる。

「この〜!!!」
襲ってきた男に向けてロイが発火布をこする。
爆発が起こり、男が倒れるのが見える。

裏口からハボックが人質についていた敵を倒すのが見えた。
催涙ガスで咳き込んではいるものの、人質に怪我はないようだ。

そういえば、彼女は無事だろうか…
そんな考えがふと頭をよぎった時だった。


「危ない、大佐!!!」

声とともに、中尉が煙の中から現れた。
振り返ると、残った敵の姿が…
くそっ、発火布が間に合わない!

ドンッと横に突き飛ばされると同時に、大きな銃声が響き、目の前に赤い花びらが散った。

次の瞬間、目に入ったのは赤く染まった肩口を抑える彼女の姿…

「貴様!!!」

無意識に発火布をこすった。
立ち上がる大きな焔。

テロは鎮圧した…



「おい、ロイ大丈夫だったのか?」
「ヒューズ…」
ヒューズは執務室に座っているロイを見てぎょっとした。

これじゃまるで、あの戦いの時のロイじゃないか…

「ヒューズ…私のせいで、彼女は…」
「……さっき、医務室に行ってきた。大丈夫、かすっただけだ。心配ない」
「違うんだ…私があの時、一瞬……」


そう、私があの時、彼女に余計な感情を持たなければ…もっと戦いに集中していれば…彼女を傷つけることはなかった…

「しっかりしろ、ロイ」
「私のそばにいては彼女が…」

バシッ!!!

鈍い音がして、ロイが椅子から転がり落ちた。

何が起きたのかすぐには分からなかった。
しかし、頬ににじんでくるひりひりとした痛み。
口の中に鉄の味が広がる。

「ヒューズ…!?」
「いいかげんに認めろ、ロイ!!お前にとって彼女はもう単なる部下の1人って存在じゃないんだ!!!」

ヒューズの言葉が押し込もうとしていた感情を押し上げる。

「しかし、私の側にいれば彼女も犠牲になる…」

「だったら、お前が守ってやればいいだろ!」
「……」
「好きな女1人守ってやろうと思えないやつに、上に行って何千何万の国民なんて任せられないんだよ!!!」


私は…彼女を守ろうとしていたのか…?

私は…今まで逃げていたのか…?


まるで真理にたどり着いたかのように、唐突に理解した。

私にとって彼女は何の対価にもすることが出来ない大切な人。


「ありがとう、ヒューズ」
「上官殴ったの、これでチャラだな?」


微笑んでいるヒューズを執務室に残して、ロイは医務室へと向かった。