無能
外は雨。
朝からずっと降り続いている。
天気予報では明日の朝までやまないらしい。
「失礼しま〜す」
突然後ろから聞こえた声に、ロイはびっくりして、足を掛けた窓枠から滑り落ちてしまった。
「ぐっ…痛っ…」
「なにやってんすか、アンタは…」
「お前のせいで、向う脛を思いっきり打ったではないか」
「仕事サボって逃げ出そうとしているほうが悪いんすよ」
今日は雨のため、屋内には人が多い。
そのためロイは窓から外へ逃げようとしたのだが、ハボックのせいで機会を失ってしまった。
「大体、なんで貴様がここにいるのだ!」
「中尉に頼まれたんですよ」
「何?中尉が???」
「アンタがそろそろ脱走する頃だから様子見てきて、と…」
既に先を読まれていたというわけか…
がっくりと頭を垂れるロイを見て、ハボックは大きな溜息をつく。
「ちゃんと仕事してくださいよ…それに今日はこの天気。外に出たら危ないっすよ」
「うるさい…」
「はぁ…そんなんだから『無能』なんて言われるんです」
逃げ出すタイミングを失って、ロイはしぶしぶデスクに向かった。
「しかし、さすが中尉っすね〜。大佐の先を読む行動といい、あの銃の腕前といい…ホント有能な人っすよね〜」
「………」
「いつも冷静だし、仕事は速いし、綺麗だし……」
「……それは私へのあてつけと判断してよいな?……」
発火布に手を伸ばしたロイを見て、ハボックは慌てて執務室を出て行った。
そろそろ書類が終わるという頃、執務室のドアがノックされた。
「失礼します」
入ってきたのはリザ。
「そろそろ書類が終わる頃かと思いまして…」
リザはデスクの上に積まれた書類をちらりと見る。
どうやら、今日はサボっていないようだ。
「あぁ、これで終わりだよ」
書きあがった最後の書類を山の一番上に載せる。
「ご苦労様でした、大佐」
チェックを終えたリザの言葉を聞いて、ロイはぐっと伸びをする。
久しぶりに一日真面目に椅子に座っていたためか、身体が痛い。
「それではこれを提出して参りますので…」
「あっ、ちょっと…」
出て行こうとするリザをロイは引き止めた。
「せっかく一日真面目に仕事したんだから、ご褒美はないのかね?」
「ご褒美?」
「そう、ご・褒・美♪」
「真面目に仕事をするのは当たり前のことだと思いますが?」
「まぁまぁ、そう堅いことは言わずに…久しぶりに君の手料理なんか食べたいなぁ…」
はぁ…まったく、たまに真面目に仕事をしたと思えばこれなんだから…
一度言い出したらきかないロイの性格を考え、これ以上反論しても無駄だとリザは判断した。
「わかりました。では提出してきますので、ちょっと待っていてください」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
生き生きした笑顔のロイとは対照的に疲れた表情を浮かべて、リザは事務室へと向かった。
「出来るまで、ソファーに座って待っててください」
帰りに買ってきた材料をテーブルの上に置きながらそういうと、リザはキッチンへと向かった。
ソファーに腰掛けたロイの足元にブラックハヤテ号が擦り寄ってくる。
何度もロイがここを訪れているためか、すっかりロイになついているのだ。
ブラックハヤテ号とじゃれていると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。
覗いてみると、丁度リザが出来上がった料理を盛り付けているところだった。
今日のメニューは野菜スープとサラダとハンバーグ。
どれもロイの好きなものばかりだ。
「急なことで余り手の込んだものは作れませんでしたが…」
「そんなことはないよ、とても美味しかった」
ソファーに座っているロイの隣にリザは腰掛ける。
差し出されたグラスにはワインが注がれている。
はしゃぎ疲れたのか、お腹がいっぱいになったからか、部屋の隅に置かれたクッションの上でブラックハヤテ号は丸くなって寝息を立てている。
外からまだ降り続いている雨の音が聞こえる。
「雨…やみませんね…」
「明日の朝にはやむと言っていたが…」
「早くやむといいですね」
「……どうせ雨の日は無能だからな…」
「自覚があるのでしたら、雨の日に窓から逃げ出そうなどとしないでください」
「では、今夜は雨が降っていて危険だから、外には出られないな…つまり、私の家には帰れないということだが…」
「なっ!?誰もそんなこと言ってな…」
リザの言葉を遮るように、ロイはリザの唇をふさいだ。
「そういえばまだ、デザートを食べていなかったな」
そういうと、ロイはリザを抱きかかえてベッドへ向かった。
リザの唇はマシュマロよりもやわらかく、チョコレートよりも甘い。
そして、ワインよりも私を酔わせてくれる。
何度も何度もキスを繰り返す。
その心地よさは癖になる。
いつもはまとめられている金色の髪が、今は白いシーツの上に広がっている。
キスをしたまま、左手でそのやわらかい髪をなで、右手でボタンをはずす。
現れた白い形のよい胸をそっと触る。
「んっ…」
リザのわずかな反応を見逃さない。
そのままゆっくりと胸をもむ。
リザの甘い息に触れるたびに、こちらまで気持ちよくなってくる。
首筋、耳たぶ、ふくらはぎ…触れるたびにリザの声が熱を持つ。
「あぁ、そういえば、昼間ハボックが言っていたな…」
「えっ…あぁっ…」
「リザは先を読む目、銃の腕前、その冷静さ、仕事、全てにおいて有能だと」
そう言いながら、リザの一番敏感なところに触れる。
「あぁ…大佐…やっ…」
「誰も知らないだろうな…こんなに夢中で、こんなに乱れているリザがいるなんて…」
すっかり潤っていることを確かめ、ロイはゆっくりとリザの中へ入っていく。
熱い。
ゆっくりと動き始めると、リザの中は熱が上がっていく。
「た、大佐…イヤっ…あっ…もう何がなんだかわからないっ!!」
動きがだんだんと速くなる。
きゅっと締め付けられる。
「あぁっ!!!」
リザの声を聞くと同時に、ロイも絶頂に達した。
「私は有能なんかじゃありません…」
真っ暗なベッドの中でリザはつぶやいた。
「だって、貴方とこうしてると、何も出来なくなる。どうしていいか分からなくなる。無能ですね…」
「そんなことは無いよ。やはり君は有能だ」
だって、無意識のうちに、あんなに私を夢中にさせてしまうのだから…
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