真夜中のTea Time
時計の針はもうすぐ10時を指そうとしている。
外は真っ暗。
もうこんな時間か…
そう思って溜息をつくと、ハボックはタバコの箱へ手を伸ばした。
くしゃっ
少し力を入れただけで、箱はつぶれてしまった。
「さっきのが最後の1本だったのか…こんなことなら、もっと短くなるまですえばよかった…」
あいにくストックは切らしている。
最近忙しくて、店が開いている時間に買いに行けないのだ。
諦めて机の上の書類に向かおうとする…が、まったく集中できない。
「クソッ、ついてないな…」
イライラはつのるばかり。
このままでは全く仕事は進みそうにない。
「何か飲むか…」
口淋しいのをごまかすために、ハボックは給湯室へと足を運んだ。
シュンシュンとコンロの上にのったヤカンから湯気が立ち上っている。
食器カゴから自分のカップを探し出すと、ハボックは戸棚の前へと移動した。
そこに並べられたビンや缶を前に少し悩むと、一番右端にあった茶色いビンに手を伸ばした。
その中身は、インスタントコーヒー。
ハボックがインスタントコーヒーをカップに入れようとしたそのときだった。
「ハボック少尉!?」
突然背後から声をかけられ、驚き振り向くと、そこに立っていたのは見慣れた上司。
「ホークアイ中尉…中尉も残業っすか?」
「ちょっと仕事が終わらなくて…」
「一休みってとこですか?」
「えぇ…良かったら少尉の分もいれるわ。それでいいの?」
中尉の視線は、ハボックの手の中にあるインスタントコーヒーのビンへと注がれている。
「いや…実はオレ、コレしかいれられなくて…支給の茶はまずいし、紅茶とかはよくわかんないし…」
確かに棚には、軍部名物のまずい支給茶以外に、女性軍人たちがもちよった紅茶やコーヒーが数種類あった。
しかし、どれが美味しいのか、普段そんなものを自分で選ばないハボックには知る由も無い。
いつも消去法でインスタントコーヒーが残ってしまうのだ。
「じゃあ、たまには違うのを飲んでみる?私と一緒のでいいかしら?」
「あ、もちろんっス」
ハボックからインスタントコーヒーのビンを受け取り棚に戻すと、リザは戸棚の奥から小さな缶を取り出した。
「アレ、そんなのありましたっけ?」
さっき見たとき、気付かなかった…
「これは取って置きのお茶なのよ」
そういうと、リザは温めておいたティーポットに茶葉を入れた。
ゆっくりとヤカンのお湯を注いでふたをする。
その間にカップを温める。
「なんかいろいろ面倒なんすね…」
「そうかしら?でも、こうすることでお茶の味が全く違うのよ」
壁にかかった時計を見ながらリザはゆっくりとティーポットを持ち上げまわす。
カップに注がれる紅茶から立ち上る香りは、今まで飲んできたお茶とまったく違い、優しく…そして深い。
この香り…どこかで…
「はい、できたわ。ミルクとお砂糖はお好みでどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
湯気の立ち上るカップをハボックは受け取った。
「じゃあ、私は行くわね」
「お疲れ様ッス」
仕事に戻る中尉の手には2つのカップ。
あぁ…この香り…
いつもアノ部屋にかすかに残っている…
ストレートで一口飲んでみる。
少し苦い。
冷蔵庫から牛乳を出してカップに注ぎ、角砂糖を一つ入れ、ハボックは自分のデスクへと戻った。
「遅かったな…」
「すみません。ちょっと給湯室でハボック少尉と会って…」
机に座ったロイにカップを手渡すと、リザは自分のカップを持ってソファーに腰掛けた。
一口飲む。
角砂糖2つと少し多めのミルク。
いつもの味だ。
ロイの顔にホッとした表情が浮ぶ。
「で、ハボックに会ってどうしたんだ?」
「どうもしませんよ。ただ、お茶をいれてあげただけです」
「…あんなヤツに茶をいれてやる必要などない」
「何言ってるですか。貴方が昼間サボったせいで、こんなに仕事が溜まって、みんな残業してるんですよ?少しは反省してください!」
リザに怒られ、むすっとした顔でお茶を飲む。
そんなロイがどこか可愛らしく、リザはこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だ。
「飲み終わったら続きをお願いします。こんなところで夜を明かす気はありませんから」
「つれないな、リザ。2人きりで過ごせる夜だと言うのに…」
「仕事してください」
絶対零度の声と構えられた銃を目にしたロイは、残ったお茶を一気に飲み干すと、慌ててペンを取った。
このペースなら、何とか今日中に終わるかしら…
銃を仕舞い、リザが再び手にとったカップは、さっきより少し冷たくなっていた。